163 ある星の終わり

その泉は常夜に在って
太陽はいつでもみえなかった
それでも月や星たちが
夜の中に煌煌と輝くので
その煌めきの激しい日には
薄明るい昼のようにも感じられた
あの子は毎日ここへ来て
湖面のへりでひとり泣いていた
彼女の涙のぶんだけで
幾らか水が
増したようにもみえた
泉の神さまは
時おり彼女を慰めに来て
「もうそろそろ、おやめなさい。」と言うのだが
彼女は首をふり
「まだしばらくはこうしたいのです。」
と言っては
また泉にひとつ
涙の粒を落とすのだった

その日も彼女はやって来て
素足を泉に浸しながら
星々の輝きが
湖面で細かに波立つのを見ていた
その対岸のほうでは
神さまが寛いでおられた
彼女が何かを決意しかねて思い悩んでいるのを
神さまは分かっておられた

彼女は言った

「私は一体どれくらい長い間こうしているでしょう。私はある悲しみについて、今、手を加えようとしていますが、一体どれくらい前からこうしていて、どれくらいの涙を流したか分からないものを、私がこの手で取り扱って動かしてよいのでしょうか。それは軽率ではないでしょうか。」

神さまは彼女のそばまでやって来た
「長いといっても、千年と、一万年と、一億年の、どれが長いか、きみに分かるかい。」
「それは一億年です、神さま。」
「では、一億年と、二億年の違いが感じられるだろうか。」

「私に分かるのはほんの数十年で、それより昔のことは、古いということ以外は分かりません。」

「それならば、何億年だろうと同じことだよ。」

神さまは微笑んだ

彼女は人間の無知を思い出して
黙ってしまった
神や星々の世界からしたら
人は憐れなほど小粒だった

「どんな星であれ、いつかは終わる。星は生まれ続ける、また、終わり続ける。」

「ええ、それは今日なのかもしれません。」

「めでたきこと。この泉の色の美しいのはきみのおかげ。きみは素晴らしい仕事をした。」

それを聞くと、彼女は満足げにうなずき、立ち上がった。