その泉は常夜に在って
太陽はいつでもみえなかった
それでも月や星たちが
夜の中に煌煌と輝くので
その煌めきの激しい日には
薄明るい昼のようにも感じられた
あの子は毎日ここへ来て
湖面のへりでひとり泣いていた
彼女の涙のぶんだけで
幾らか水が
増したようにもみえた
泉の神さまは
時おり彼女を慰めに来て
「もうそろそろ、おやめなさい。」と言うのだが
彼女は首をふり
「まだしばらくはこうしたいのです。」
と言っては
また泉にひとつ
涙の粒を落とすのだった
その日も彼女はやって来て
素足を泉に浸しながら
星々の輝きが
湖面で細かに波立つのを見ていた
その対岸のほうでは
神さまが寛いでおられた
彼女が何かを決意しかねて思い悩んでいるのを
神さまは分かっておられた
彼女は言った
「私は一体どれくらい長い間こうしているでしょう。私はある悲しみについて、今、手を加えようとしていますが、一体どれくらい前からこうしていて、どれくらいの涙を流したか分からないものを、私がこの手で取り扱って動かしてよいのでしょうか。それは軽率ではないでしょうか。」
神さまは彼女のそばまでやって来た
「長いといっても、千年と、一万年と、一億年の、どれが長いか、きみに分かるかい。」
「それは一億年です、神さま。」
「では、一億年と、二億年の違いが感じられるだろうか。」
「私に分かるのはほんの数十年で、それより昔のことは、古いということ以外は分かりません。」
「それならば、何億年だろうと同じことだよ。」
神さまは微笑んだ
彼女は人間の無知を思い出して
黙ってしまった
神や星々の世界からしたら
人は憐れなほど小粒だった
「どんな星であれ、いつかは終わる。星は生まれ続ける、また、終わり続ける。」
「ええ、それは今日なのかもしれません。」
「めでたきこと。この泉の色の美しいのはきみのおかげ。きみは素晴らしい仕事をした。」
それを聞くと、彼女は満足げにうなずき、立ち上がった。