わたしは繰り返し、繰り返し、とてつもなく忌々しい記憶を思い出す。
そのたびに苦しまぎれに、恨みがましい演出を含んだ、毒のような言葉をぶつけようと試みる。
あの人は何も言ってくれないし、ニコニコ笑っていて、よろこんでいる気すらする。
どうして?
どんなに乱暴な性質の神さまでも露ほどの慈悲ならあろう、そうであるならこの苦しみを見過ごせはしないだろうに。
ありありと蘇る苦痛は勢いを増して、人を責めるための激しい言葉の溢れるうち、どれを使うのがよいか、厳選する余裕もない。
どうして?
あの人は動かない。
透明な、冬の晴れた日の湖みたいな目の、水面が少し揺れたと思えば涙だった。
わたしははっとした。
「どうして? わからないっていうのですか? わたしがそんなに憐れだとでもいうのですか?」
「よかったねえ。ほんとうによかったねえ。」
あの人は柔らかに言った。
急に体の力が抜けるようだった。
あれだけ苦痛だった、むず痒い不愉快さが、飛び散るようにいなくなった。
「わたしは、つらくて。」
声は掠れ、それ以上は続かなかった。
あの人はうなずいた。
「うん。」
もう続きを言う必要はないように思われた。その水面はすべてを映した。それは命の水、祝福の泉だった。
「本当にそうなんですよ。」
「うん。」
わたしはまだ二言か三言か、聞こえないくらいの声量で、同じようなことををぼやいたが、この対話が終わるのが名残惜しいだけだった。ついさっきまでの感情のごっそり消えたところに、ひんやりした心地よい風が流れてきた。あの人はもう何も言わなかった。