173 消えないしみ

 

染みがついてしまったと思っていた

 

どんなにこすっても落ちない

 

入れ墨のような"しるし"が・・・

 

わたしにはついてしまった

 

だから何ということもない

 

このままの姿でも生きていけると

 

諦めて平気に振る舞うことも

 

できるとしても

 

それでも

 

ずっとその染みはついている

 

そう思っていた

 

ある日

 

わたしは

 

洗濯をしていた

 

洗濯機がピーとなったから

 

洗い終わった白い布を

 

取り出したが

 

コーヒーかなにか

 

拭いたあとだったのか

 

ひどく茶色く汚かった

 

「あら、落ちてない」

 

小声でつぶやいた

 

そのとき

 

胸の奥が何かぐっと詰まった

 

自分の出した言葉が

 

戻ってきて突き刺さり

 

大きな音になり

 

繰り返しこだまして聴こえた

 

「落ちない」

 

「落ちない」

 

『『汚れが落ちない』』

 

ぞっとするような恐怖感が出た

 

振り払って気にしないことにしたが

 

そういえば

 

過去にもいつもそうだった

 

つけ置きしても、漂白しても、

 

落ちていない染みを確認するとき

 

異様に怖くてたまらないのだった

 

自分のことだと、

 

同じだと思うのだった

 

洗っても洗っても落ちない

 

染みみたいなものだ

 

わたしの存在みたいだね

 

もうだめなんだ

 

落ちないものなのだ

 

なぜかはわからない

 

だけど

 

それが洗脳だった

 

今なら分かる

 

教えてくれる人がいたから

 

じっとわたしの目を見て

 

染みなんかないよって言ってくれた

 

何度も何度も真剣に

 

ない?まさかね

 

こんなに必死に

 

洗おうとしてるのに

 

ない、はないでしょう

 

と思った

 

でも・・・

 

何いってるの?

 

 

ぽかんとするその顔が

 

嘘をついていないのも

 

分かったから

 

あぁ、

 

本当にそうかも

 

と信じかけたとき

 

幻覚をうつす

 

鏡にヒビが入った

 

『どこも汚れてない。』

 

『きれい。』

 

君はきれい。

 

その言葉は薬のようだった

 

あぁ、そうだな、

 

とてもきれい、

 

きれいなものを

 

見る眼のほうを

 

あなたの眼のほうを

 

わたしは信じてみたい

 

そう思ったから

 

きれいなものを

 

思い出すことができた