154 花が咲くとき

人が通らない場所だからと咲くのをやめる花がないように、誰も足を踏み入れたことのない秘境にも風は吹き雨が降るように、たとえ人類が絶えても天が変わらず在るように。

人が観測しなければその物は存在しないというような考えは、人間しか考えることができないことだという意味では愛らしさすら感じるほど、可愛らしいほど愚かだ。宇宙とか神とか空とか、人が名前を付けて呼ぶ前からそれらは在る。誰が観測しなくとも構わない。時間を人が観測する必要はない。宇宙に時計はないし、宇宙が時計みたいなものだ。それは永遠に観測し、永遠に記録する。もう誰ひとり覚えていないことでも、正確に覚えている。

たとえば、あなたが誠意を尽くしたが、誰にも感謝されなかったことも。

逆にあなたが尽くされたのに感謝できなかったことも。

あなたも、あなたと関わり合った人間も、みんな忘れてしまっても、それが覚えている。それは正確で完璧な仕事である。だから記録に関しては、それに任せることにしよう。

人間が、あえて、時間のことを細々と考える必要はない。過去でも未来でも、すべて同じように、それが収納してくれるのだから。人間にとっては、もう過去のことだからとか、未来のわからないことだからとか、時間に関する考えをこねくり回すことをやめて、ただ今、まとめて、そこにあるものを、まっすぐに観るよう、まっすぐに感じるよう、集中するほうがよっぽど幸せである。