109 一本ずつ

一本ずつ引きなさい、と、その人は言った。
手元に持つのは一本だけでいい、ニ本目も三本目も捨てなさい、そして、その一本だけを手繰って、ほどきなさい、と言った。
大きく難しく見えるものも元々は一本の糸だった。ただ長い時間をかけて絡んだところがあるだけだ。まとめて引いても叩いてもどうにもなりはしない。
一番手に馴染むものを選んで一本だけ持ちなさい、ただそれを手繰り寄せて進みなさい、と、その人は言った。