9 手紙 20210611

知らない景色の中に生まれて、流されるままに、知り合いのようでいて初めて見る他人たちと暮らして、ごく普通の人間として、楽しいようなことにであったり、嫌なようなことにであったりして、当たり前に時間が過ぎていき、それでも、これが一体なんなのかは教えてもらえず、誰に訊ねたらよいのかもわからず、周りの真似をしようとしても、自分が他のどの人間とも違う個人であるという壁が立ちはだかっていた。音のない霧の中にいるようだった。誰かが自分を呼んでいるような気がするときがあっても、耳には何も届かなかった。それが悲しいことなのかどうかもわからなかった。悲しいことを味わうには、悲しい気持ちにならなければならないのに、そのような感情のあれこれの動きすらも難しく感じられた。いま、その舞台が幕を閉じるとしたら、新しい場所はどこになるのか。そしてあの舞台は何のためにあったのか。私は誰に従ってきたのか。相変わらず私はここにいて、その事実を大声で叫びたいようなときもあるが、それが無意味なことは分かっている。君はずっとここにいて、私が何を言おうが、じっとしずかに聴いている。そのことを感じている。